


黄色い小さな木工薔薇 Tiny Yellow Roses of Spring.

実家の近所を、あてもなく歩いていた。風のない、穏やかな春の日だった。
ふと見上げた先、どこかの家の垣根から、黄色い花が枝いっぱいにこぼれていた。モッコウバラだ。トゲのない蔓に、小指の先ほどの花を幾重にも重ねて、淡い金色の房が咲き乱れている。日を受けたひとつひとつが、内側からほのかに灯っているように見えた。

黄色い花には珍しく、この花の花言葉に暗い意味はない。「純潔」「初恋」「幼いころの幸せな時間」── どれもまっすぐで、屈託がない。誰に見せるためでもなく、他所の庭で当たり前のように春を告げているその姿に、言葉のほうがよく似合っていた。

シャッターを切りながら、俺は遠い日の春を思い出していた。名前も忘れた景色の断片が、この黄色の奥に、まだ残っている気がした。
風のない午後だった。花はただ静かに、そこで咲いていた。
Camera: SONY NEX-5N.


